『ある日の白熊亭〜営業日誌より〜』
最後の客は常連のツァイ爺さんだった。
何時もなら、然程深酒するタイプでもないのだが、今日は何か嫌な事でもあったのだろうか?
家までは少し距離があるので、ライアスの奴が背負っていくと言い出した。不思議な男だ…。
奴らがこの店に居候決め込んだ頃からどれくらい経つんだったっけか…逞しくなったもんだ。
「あんた、ボケッとしてないでとっとと店閉めるよ!」
「あ、ああ、すまんすまん。なんだかライアス達のこと考えるとなぁ…懐かしくなっちまってなぁ」
「そうね、まさかあの子達がここまで成長するとは思わなかったわねぇ…皆逞しくなっちゃって…」
「俺達にもあんな時期があったんだよなぁ」
「ははは!まあ、そうね…。最近じゃあ、どっちが世話になってんだか、ね?」
話しながらも、驚くべき手際のよさで店仕舞を進める女将さん、一枚の張り紙に、ふと目が止まる。
「なんだい、こりゃ。冒険者なら、自分の命を…、こりゃあんたが張ったのかい?」
「いや、知らんね…どこぞの酔っ払いが張っていったんだろ?」
「…なんだか、不吉な言葉だねぇ…」
「ライアスの奴、遅いなぁ」
「またどこぞのチンピラでも……あらやだ、こんなところにセシリアの聖印が落ちてるよ…」
「ったく、あの娘も…いい加減な奴だ…」
その時、店の扉が開いてライアスが帰ってくる。
「ただいまぁ〜。ったく、最近のチンピラてのはたちが悪いよな、爺さん背負ってる俺に向かって
喧嘩売ってきやがった。」
「あんたもあんまりあちこちで恨み買って、家に迷惑かけないでおくれよ」
「んなこと言っても仕方が無いだろぉ〜、向うが喧嘩売ってくるんだからさぁ…」
「ほれ、ライアス。とっとと片して寝るぞ!」
「はいはい、分ったよ。はぁ〜、眠いなぁ…」
白熊亭の夜は更ける。そしてまた、朝が訪れる。ツァイ爺さんの元にも、奴らのもとにも。
奴等が家の店に来て以来、退屈しない数ヶ月が過ぎた。楽しい時は、すぐに過ぎていってしまうものだ…。
奴らは何時まで居てくれるのだろう?最近そんなことばかり考える。俺も歳をとったものだ…。
奴らは、若い。俺に彼らを引き止める資格は無い。俺も、いろいろ通り過ぎてきたのだから…。
それでもやっぱり……いや、言うまい。
いつか旅立つ彼らの為に、俺はまた、料理の腕を振るう。それで…いいよな?